スウィート・ライフ




  『スウィート・ライフ』

 小さい子供の例に違わず、ルークも甘いものが好きで上手く操れないフォークを拳で握って、幸せそうな表情でチョコレートケーキを口に運ぶ。ファブレ家のシェフが作ったケーキは、それは美味だ。
「美味しいか、ルーク?」
「うんっ」
 幼いルークが、にこりと微笑む。ぱくぱくと、チョコクリームを頬に付けながら早くも一切れを食べ終えてしまう。
 フォークをくわえて、悲しそうに何もない皿を見つめるルークの様子が可愛らしくて思わずガイは吹き出してしまう。まるで小動物のようだ。
「ほら、これも食べろよ」
 ガイが自分の分のチョコレートケーキがのった皿をルークの方に滑らす。えっ、と一瞬嬉しそうにしたが直ぐにルークはいらないと首を振った。
「どうしたんだ。食べたくないのか?」
「だって、食べちゃったらガイの分がなくなっちゃう」
 だからいらないと、食べたいだろうにケーキをガイに返す。幼い子供の優しい心が沁みて、思わずガイは微笑んだ。
「俺はいいよ」
「でも…」
 いいのかな、とルークが首を傾げる。
「…じゃあ、一口だけ貰うか」
「う?」
 顔を寄せて、ルークの頬に付いたクリームを舐め取る。とっさの事で、それに頬にクリームの付いていたと知らなかったルークはきょとんとした顔をした。
 子供ながらその無防備さは危険だと、ガイは笑いながらフォークにのせたケーキをルークの口元に運んだ。



 という過去の甘い記憶を思いだしたのはこのチョコレートのせいかと、ガイは最後の一つを口に入れる。店で母親の手を引く幼子を見て、何となく買ってしまった。多分その子供が、幼い時のルークと被ったからだ。
 何も知らず、無垢であった時のルークと。
「なんっか、甘い匂いがするなー。ガイ、お前……あーっ!! ずっりーぞ。一人だけチョコレート!!」
 宿屋の部屋に戻ってきたルークが、チョコレートの包み紙を目敏く見つけガクガクとガイの襟をつかみ揺さぶる。頭もついでにシェイクされ、可愛かった幼いルークの記憶も霧散する。俺は何処で教育を間違えたかと、ガイが肩を落とす。
「…ルーク、お前…まるで欠食児だぞ」
「ナタリアのっ、食事を食べさせられている俺に黙ってチョコレートを………っ!!」
「あぁ、まぁそれは」
 味見役を仰せ付かったルークが最近食事時に具合の悪そうなのは気のせいではないだろう。カルシウムが、足りてないとガイは思う。確かに血糖値も。
 はぁーと心底残念そうにルークはガイの肩に頭を垂れる。俺のちょこれいと…と小さく呟くルークの名を、ガイは呼んだ。
「何だよ、ガ……っん………」
 顔を上げたルークの頬に手を添えて、唇を奪う。ルークが驚いて逃げようとするのを許さずに、ガイは左手でルークの髪を撫ぜて捉えた。
「は…っ、…ふぅ………」
 唇を割り、ねっとりとルークの舌と絡ませる。旨く呼吸できず息苦しそうなのも可愛くて、意地悪心が疼いて更に口付けを深める。
「…ガ、イ……も、やっ……―――」
 いい加減口付けを止めないと、どうなってしまうのか。ルークは脱力しかける身体に抗って、ガッと、音が経つぐらい大きな拳骨をガイに落とす。
「ったた。酷いぜ、ルーク」
 ガイの手が離れて、ぱっと逃げるようにルークが距離を置く。真っ赤な顔で、まるで乙女のように濡れた唇に手の甲を当てた。
「おっ、お前っ!! なに…何すんだよっ」
 唇を擦りはしないだけましかと、ガイは軽く笑った。どうしてと聞かれても、したかったからとしか答は出ないが、それはそのまま伝えられるわけがない。
「チョコレート」
「…え?」
「チョコレートの味、しなかったか? 渡したのに」
 キスで、口の中のチョコレートをあげたのだと言われ、あ…っとルークが小さく声をあげる。
「甘い…」
 思わず舐めた唇に、甘味があってばっと再びルークは顔を染める。
「でっ、でもお前、何もそんな…っ」
「うん?」
 飄々とガイが聞き返す。ルークは返す言葉に詰まり、何も言えない。じりじりとガイの手の届かない距離をとり、ガイの座るベッドの隣のベッドの枕に手を延ばす。
「ルー…」
 名前を呼び切る前に、ぼすりと枕が飛んでくる。勢いよく扉が閉まった音が聞こえて、ルークが部屋を出て行ったのが分かる。
 枕を避ける事は出来たが、ガイはその罰を甘んじて受けた。